May 6, 2015

途方に暮れている。(ノンフィクション)

この物語は、スピーカーの壊れたエルクと、アンプ部の不調なエーストーン、二台のギターアンプを修理すべく立ち上がった男の一夜の出来事である。



途方に暮れている。

わざわざ、スピーカーグリルを外さなくても、スピーカーのユニットを取り外すことはできたのだ。それに気づいたのは、サビついて非常に回しづらいボルト12本を外し終えたときのこと。

アルミ製の『ACETONE』のロゴプレートも外したが、それに至ってはまるで関係なかったうえに、プレートを留めていた小さな木ネジは行方不明になってしまった。

それでも、このグリルを外さなければできなかったこと。グリルとキャビネットのあいだに溜まっていたホコリを綺麗にしたりしてみる。これまでの時間が無駄ではなかったと思い込みたいのだ。

そうやって、スピーカーの移植を終えた。エルクのアンプは、久しぶりに内蔵スピーカーから良い感じの音を出せるようになった。よかった。

社長はドイツに買付けに行っているが、私がちゃんと朝から店を開けているかどうか、誰かを偵察によこさないとも限らない。もう眠ったほうが良いのだが、エーストーンにグリルと12本のボルトを戻してやらなければならない。

そして、組み終えたはずのエルクのアンプのそばに、はめ込み忘れたと思われるワッシャーがひとつ転がっているのだ。